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就労支援における合理的配慮

日本では法律に基づき事業者に対して、障害のある方への合理的配慮を提供することが義務化されています。障害のある方でもこの合理的配慮を受けることで、障害のない方と同じような就労が可能になるのです。

ここでは、就労支援における合理的配慮や、その法的な位置づけについて、また合理的配慮を受ける際のポイントやケーススタディについても紹介していきます。

合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じ「平等」と「人権」を行使できるように、その障害となっている問題を取り除いたり調整を行ったりすることを言います。障害のある人だけを特別扱いするというものではなく、むしろ障害の有無に関わりなく、誰もが平等と基本的人権の自由を行使できることを根本理念としています。

就労支援における合理的配慮とは、障害のある人とそうでない人が共に就労機会や待遇を平等に享受することを目的に、その障害となっている状況を改善したり調整したりすることです。このことは法律に基づいて提供される事業者としてのサービスの一種であり、障害のある人に対する就労支援における合理的配慮は、事業者に対して義務として課されています。

合理的配慮として提供されるサービスの内容は、全ての障がい者に対して一律ではないことが特徴です。必要な配慮は、障がい者一人ひとりが置かれている環境や状況によって、柔軟性を持ってケースバイケースでニーズに応じたサービスが提供されます。

合理的配慮の法的な位置づけ

就労支援における合理的配慮は、事業者による自主的なルールではなく、「障害者雇用促進法」と「障害者差別解消法」という2つの法律によって定められています。

障害者雇用促進法は平成28年4月1日に改正され、「改正障害者雇用促進法」が施行されました。この中では事業者に対して「障害者が自分の能力を発揮して仕事をスムーズに進められるよう、合理的配慮の提供をおこなう」とし、障害のある方に対する雇用の分野での合理的配慮の提供が義務化されています。

また障害者差別解消法も2021年5月に改正され、「改正障害者差別解消法」が参議院本会議で可決・成立しました。この中でも事業者に対して「障害者から助けを求められた場合には、合理的配慮の提供をおこなう」とし、やはり障害のある方への雇用の分野での合理的配慮の提供が義務付けられています。

以上のように合理的配慮は、法律によって提供義務が事業者に課せられています。れっきとした法的根拠を持つ制度なのです。

参照元:厚生労働省| 障害者雇用促進法の概要(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/)

参照元:内閣府|障害を理由とする差別の解消の推進(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html)

合理的配慮を受ける際のポイント

合理的配慮を受けるときの3つのポイントを紹介します。

障害者手帳は原則不要

「障害者差別解消法」など合理的配慮について定めた法律に書かれてある「障害者」とは、障害者手帳を持っている人だけが対象ではありません。知的、身体的、精神的障害のある人や、難病に起因する障害のある人など、あらゆる心や体のはたらきに障害がある人、社会の中に存在するバリアによって、日常生活や社会生活に制限を受けている人すべてが対象です。従って、合理的配慮を受ける際に障害者手帳は原則不要です。

医師の診断書についても同様です。医師の診断書は、提供される配慮の内容について話し合いを行う際に、資料の一つとして用いられることもありますが、合理的配慮を提供すべきか否かを法的に判断する基準とはなりません。

雇用企業との話し合いで決定する

合理的配慮の提供に関しては、その可否や内容について、本人と企業側との話し合いで決定されます。本人の希望がなんでも通るというわけでもありませんし、企業が拒否すればすべて拒否できるわけでもありません。合理的配慮について定めた障害者差別解消法では、「負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者に対しては、対応に努めること)」としています。

上記法文をベースとして、配慮される内容や程度については、本人の希望を取り入れた場合の事業活動への影響度、実現困難度、費用負担の程度などを考慮に入れて話し合い、総合的に判断して決定します。どちらか一方が負担を負うのではなく、双方が歩み寄り、共生の理念に基づいて最適な結論を得るために話し合うことが大切です。

参照元:内閣府|障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html)

合理的配慮のケーススタディ

合理的配慮の要請は、ともすると“わがまま”と捉えられてしまう可能性もあります。わがままではなく、正当な権利の行使として合理的配慮の要請をする場合は、希望の伝え方に気をつけるとよいでしょう。ここでは、合理的配慮の伝え方にフォーカスしたケーススタディを紹介します。

時短勤務から始めたい

就労したばかりでストレスが溜まりやすい場合は、時短勤務から始めたいと要望を出すことができます。この要望自体は自然なものですが、伝え方によっては、わがままと捉えられてしまう可能性があるので注意が必要です。

例えば、「きついと感じた日はすぐに退社させてください」という言い方をするなら、相手には「誰だってきついときは退社したい」と思われ、わがままだと受け止められてしまうかもしれません。

従ってこの場合は、「就労したばかりでまだ環境の変化に慣れておらず、ストレスが溜まりやすくなっているので、時短勤務から始めさせてください」という言い方ができるでしょう。

“就労したばかりでストレスが溜まりやすくなっている”という現在の自分の状況を正確に伝えることで、時短勤務の必要性を理解してもらうことができます。

耳栓・イヤホンを使用したい

何気ない環境音や人の声が過度に大きく聞こえるなど、聴覚過敏がある場合は、「耳栓・イヤホンを使用したい」と配慮を求めることができます。

この場合は、「自分は聴覚過敏だからイヤホンをして音楽を聴きながら仕事をさせてください」という言い方をすると、わがままと捉えられてしまう可能性があります。従って「自分は聴覚過敏があるので、仕事に支障が出ないよう、状況に応じて耳栓やイヤホンを使用させてください」という言い方ができるでしょう。

聴覚過敏が仕事に支障をきたす可能性があることを伝えることで、合理的配慮の提供を認めてもらいやすくなります。

クーラーの冷気が直接当たらない席に移動したい

クーラーの冷たい風が苦手な方は、クーラーの冷気が直接あたらない席で仕事がしたいと希望されるかもしれません。これも身体へのダメージと仕事の能率低下を考えれば、合理的配慮として検討にふさわしい項目ですが、伝え方には注意を要します。

例えば「自分はクーラーの冷たい風が苦手だから、真夏日でもクーラーは止めてほしい」という言い方をすれば、わがままだと受け止められる可能性があります。社内には、外回りから戻ってくる人や、汗かきの人もいるからです。

よってこの場合は、「自分はクーラーの冷風が苦手です。できればクーラーの冷気が直接あたらない席に移動させてください」という言い方がよいでしょう。クーラーの存在自体を全否定するのではなく、クーラーの冷風により仕事がやりにくくなることに注意を向けることで、理解を得やすくなります。

状況を見て声をかけてほしい

社内で人の呼びかけに応じたり、会話をしたりするのが負担に感じる人もいるでしょう。こうした点も配慮事項に含めてもらうことは可能です。

ただし伝え方として、「自分は日によって人と会話したくないときもあるので、出社時の自分の表情や雰囲気を見て、話しかけづらいオーラが出ているときは話しかけないでほしい」という言い方をすれば、わがままと捉えられる可能性があります。本人が出社するたびに表情や雰囲気をチェックするのは、負担に感じる思う人もいるからです。

よってこの場合は、「調子が悪い日はホワイトボードに×のマークを書いておくので、このサインが書かれてある日は、人と会話するのが負担に感じる日だと思ってください」という言い方をするとよいでしょう。配慮を受けるに際して、周囲の負担にならない方法を提示することで、協力してもらいやすくなります。